2012.06.20 Wednesday
イ・ブル展 感想など

先日、招待券を頂いたので森美術館に「イ・ブル展」をみてきました。
ツイッターの呟き等でなんとなく耳にしてはいましたが、
相変わらず予備知識ゼロで行ったのです。
が、これが非常に好みでした。
アーティストプロフィールや作品の概要はこちらのサイトでどうぞ。
以下は非常に私的で感覚的な(要は好きか嫌いかだけでモノを見ている)感想です。
作品は初期のものから新作まで。
初期のモンスター的作品は、もっとおどろおどろしいかと思ったら
意外となまめかしく「きれい」な雰囲気。
素材が布とかやわらかいもので作られているのと、
仕事ぶりが丁寧なこと、当初のアイデアや生まれた背景にはもしかしたら
もっと生のきつい感情があるのかもしれませんが、作品になるまでに何度も理性の
フィルターをくぐったような感じがそう思わせるのかもしれません。
そしてキラキラとビーズやガラスをつかった作品にいきなりノックアウト。
半分に割ったトルソーをビーズ類で装飾したようなものや、天井からつるされた
一見シャンデリアのような作品。
なんだろう、この一歩間違うとホビーショーとかオカンアートにいっちゃいそうな
キラキラ。
コンセプトの確かさ(正しいというよりも研ぎ澄まされていること)とか
時間、精度、この大きさで表現されるための技術とか、そういうものによって
素材やモチーフは私にとって結構見慣れたものでもここまでになるんだなあ…という衝撃もありました。
「一歩間違うと」と書きましたが、一歩間違えたくらいじゃここへはいけないってことは、いやでもわかる。
それは作品の良しあしだけでなく、自分の理解できるジャンルや美しさかどうかというのも大きく影響するのかもな、と。
そう、つまりこのあたりで「この人の作品、すごい好みだ」と思ったわけです。
そして作品の習作をずらりと展示したアトリエコーナーが圧巻。
絵画とデッサンなど、完成品と習作を同時にみられるタイプの展示がとても好きです。
完成品だけ見ていると遠かった作者が、習作では俄然身近に感じられるから。
身近といっても習作やスケッチの点でレベルは高いし、それらの量の膨大さだけみても、とても常人じゃないわとは思います。
でも才能に恵まれたからといって、人並み以上に努力しなければ結局こんな作品は生まれないのだという事を知ると、こんなに大変な思いの上にできあがったものを見せてくれてありがとう!という気持ちになります。
白鳥は水面下の脚をみせない、バレリーナは稽古場をみせない、作家は習作をみせない、その作品だけで勝負するのが基本なので、そこに至る経緯をみせるというのは純粋に来場者へのサービスなのでしょう。逆に経緯をみせないと成立しないような作品だったら、この部屋をサービスだな、とは感じなかったのだろうな。
同じ意味で、最後のインタビュー映像も非常に嬉しい企画でした。
うろ覚えですが、作家が、「アーティストになるしかないと思った。アーティストとして有名になれば迫害されないだろうから」というようなことを言っていたのに打たれました。
彼女は軍事政権下で思想犯として常にマークされているような家庭に育ったようなのです。
私はそういう経験はないのに、子供の頃から戦争中に画家や思想家が迫害されたり、加担しなかったからといってつらい目にあったという話が本当に怖くて、絵を仕事にすることを夢見ても「もし戦争が起こったらつかまったり、逆につかまらないために加担しちゃうかもしれない!」と思うと怖くなったりするような、妄想力が強すぎる人だったので、この手のエピソードに異様に弱いです。大変個人的な話ですいません。あ、全部個人的だった。
それにしても、そういう背景を持った人のつくったものが、オタク文化臭の強いサイボーグものだったり、脳内キラキラ野を究極の洗練までもっていったような作品だったりするのが大変興味深かったのです。
軍事政権への恐怖と怒り、風刺とか、ジェンダーに纏わる暗さを含んだ問いかけとか、骨太で社会的なテーマが、たとえばアニメ、フィギュア風のモチーフで、しかも見世物的でなく、あくまで美しい造形(欠けていても)で表現されているのをみると、これがまさに「現代」なのだなと、自分が思っている「現代アート」はすでに現代ではなかったのかもと、感じたりしたのです。
たとえば、あのオブジェが、アパレルブランドの店内にかざられていても全く違和感ないし。そういえば吉祥寺のマンガをモチーフにしたカフェにも韓国作家のシャンデリアが飾られていて、あれと同じにおいがする。逆に彼女の流れからあれが生まれたのかもしれないけど。
今回森美術館では、同じフロアでワンピース展が開催されていて、それは入場料1500円にもかかわらず、大人気だったこともあわせて、ああ時代って変わっているんだ、もう自分の好きなものはマイノリティーでもオタクでもないところまできてるんだ、わかってはいたけど、もうそこの部分にこだわっていても全く意味がないんだなーという、気持ちの整理もついてしまったような一日でした。
(ただ、後日、いろいろな人とこの展示のことを話していて、私の好みや感覚(の、一部)は一般的にはやっぱりメジャーではないな…珍しいほどではなくても、マニアックな方面にはあるのだな、と認識した次第なので、やっぱり好みは別れそうです)
さらに蛇足ながら。
「アート」ということについては本当に一度自分の中でそれなりに定義みたいなものをしなくちゃいけない、そのためにはやっぱり基本的なことだけでも勉強しなくちゃいけない、と思ってまして。
それができるまであんまり美術展の感想とか書きたくないー、と思っていたのですがむしろ無知を痛感しないといつまでも勉強しなそうなので、あんまり気にせず書いていこうかなとも思いました。
そんな私の感想だけだとあまりに作家が気の毒なので、
ちゃんとした解説サイトはたとえばこちら。
読み応えあるし画像も豊富です。
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